初夢 
 

 その朝、日間名がいつものように出動し、3階の自分のデスクに着くと、「おはようございます」と挨拶しながら若い女性秘書が、笑顔とともに好物の香り高いウインナーコーヒーを運んできた。

 日間名のオフィース、否、正確に言うと彼と磯樫との共同経営のオフィースは、町の中心からやや離れた処に位置している。淡いライトベージュのタイルで囲まれたそのオフィースは、床面積1千F位のガッシリした、それでいておしゃれな感じの3階建の建物で、表の看板には<登記総合情報センター>と書かれている。

 この<登記総合情報センター>には、日間名と磯樫の他に8名の司法書士が働いている。彼らのオフィースの中にはコンピュータ端末機が20台ほど置かれ、それらの端末を、いずれも若い女性アシスタントが操作をしている。

 このオフィースのフロアーは、大きく分けて、1階にはコンピュータ端末機を操作するフロアーと、相談室、2階は取引決済室と経理室、3階は会議室と体憩室それに共同経営者の日間名と磯樫のそれぞれの個室に分かれている。

 フロアー全体にはソフトで、明るく快活なヒーリング音楽がBGMとして流れ、それが脳幹に作用して、勤務している者を心地よい気分にいざなうように設計してある。

 充分過ぎるほど明るく快適なフロアーと、花の蜜のように香り立つ空間に、毎朝出勤するのが楽しみな日間名であった。

 

 

「今日の予定は。」日間名は若い女性秘書に尋ねた。

「今日は10時から目出田不動産の取引を始めとして、5件の取引が入ってます。」女性秘書は、例によって、やさしい笑顔を投げかけて答えた。

「そうか、それじゃ君のパソコンからアクセスして情報を取り出しといてくれ。」

 日間名は言い終わると、ウィンナーコーヒーをゆっくり味わいながら自分のパソコンで、今朝の電子ニュースに目を通した。

「核完全廃絶3周年記念式典広島で開催さる」と言う記事があった。世界の核保有国から核爆弾が廃絶されて3年が経過したのを記念した式典であった。世界各国の首脳が一同に会して、世界平和を誓いあう様子が画面上から見えてくる。

 そのほか、これといって別段気にとめるようなニュースもなく、世の中、平々凡々うまく行っているようだ。

 共同経営者の磯樫は今日まで休みである。結婚20周年記念とかでヨーロッパに1週間前から行っている。去年は父親の喜寿のお祝いにかこつけてカナダ、アメリカを10日間かけて旅している。

 磯樫はなんだかんだと理由を考えだし、毎年のように海外に行くのを楽しみにしているようだ。

 一方、日間名は、旅行よりもボランティア活動に喜びを感じている。もちろん海外での活動もある訳で、長い時には1カ月も掛りっきりの時もあった。

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つづき