城南銀行のT町支店では、既に関係当事者が日間名の到着を待っていた。彼が9分位遅れて到着するなり、御世話不動産の社長が待ち兼ねたとばかり日間名に着座を奨め、取引の進行を促した。

 何時もであれば、言われた通り手続を進めるのであるが、この取引はそうとばかりはいかないのである。

「実は、皆さん」

 一呼吸置いて日間名は続けた。

「今日の決済のため、今朝、登記簿を閲覧してきたのですが、この物件に何らかの登記が提出されている可能性があります。その辺の処を再度事務員が法務局迄調査に行ってますので、連絡があるまでもう暫く待って下さい」

 目間名は、そう言いながらも、クシが入っていたのは何かの間違いであって欲しいと思っていた。

「先生、それはどう言う事ですか?」

 御世話不動産の社長が、怪訝な顔をして尋ねた。

「先程も言いました様に、この何日か前に別の登記が入っている可能性があるんですよ。何せ、保証書での受付は仮の受付で、事前通知のハガキを法務局に提出して初めてその時本受付がされるのです。ですからその間、他からの登記が入ることも可能なんですよ」

 
 

 応接室に居る関係当事者は、日間名の説明に納得したのか、皆押し黙っている。重苦しい空気が応接室全体を覆っていたが、結果が出るまでは如何ともしがたかった。とその時

「日間名先生、お宅の事務員さんからお電話ですよ」

 銀行員から促されて応接室の電話機を取り上げた。

「先生、やっぱりこの物件は使用中ということで見せては貰えませんでした」

「そうか…。いいか、今、大事な取引中ということを係の人に説明して、せめてどの様な登記が出されているかだけでも聞いて見てくれ」

 日間名は電話を切ると、応接室の全員に再度もう少し待つように言った。重苦しい空気は以前のままである。

 10分後に男性補助者から2度目の電話がなった。

「はっきりとは答えてくれませんでしたが、仮差押の嘱託みたいですよ」

 男性補助者は必死になって聞き出したんだろう。日間名にとってはその答えで十分であった。

「倉井さん。保証書で手続をしている間に誰かからの仮差押の登記が裁判所から入っている様ですよ。何か心当たりはありませんか?」

 日間名は売主の倉井に向かって言った。

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