りーがるーブログ

[2024/02/07] イベント報告

モデル事業重点支援自治体取組報告会(市町村) レポート

 令和5年10月27日、厚生労働省の委託事業における「持続可能な権利擁護支援モデル事業」を実施している重点支援自治体の取組について報告会が開催されました。
 厚生労働省では、「団塊の世代」全員が後期高齢者となる2025年を迎え、認知症高齢者の増加等により、想定されている成年後見制度の利用を含む広範な権利擁護支援のニーズに対応していくために、令和4年度より「持続可能な権利擁護支援モデル事業」(以下「モデル事業」)を実施しており、本事業では、自治体において、多様な主体の参画による権利擁護支援に係る連携・協力体制づくりをモデル的に実施し、新たな支え合いの構築に向けた各種取組の効果や取組の拡大に向けて解消すべき課題の検証等を行うとしています。
 令和5年度厚生労働省委託事業において、第二期成年後見制度利用促進基本計画に記載された「総合的な権利擁護支援策」の推進に特に寄与することが見込まれる5つの自治体を「重点支援自治体」として支援を行っており、午前の部では、モデル事業の3つのテーマのうち市町村が実施主体となる「簡易な金銭管理等を通じ、地域生活における意思決定を支援する取組」について、大阪府八尾市、高知県黒潮町、福岡県大川市より報告がなされました。
 この取組は、市町村の関与の下で、市民後見人養成研修修了者等による意思決定支援によって、適切な生活支援等のサービス(簡易な金銭管理、入院・入所手続支援等)が確保される方策等を検討する取組であり、意思決定支援の場面において、権利侵害や法的課題を発見した場合、専門職が必要な支援を助言・実施する、市町村の関与を求めるなど、司法による権利擁護支援を身近なものとする方策についても検討しています。このことにより、身寄りのない人も含め、誰もが安心して生活支援等のサービスを利用することができるようにすることを目指しています。

 市民後見人の養成等、早くから権利擁護推進事業に取組んできた八尾市は、権利擁護支援における中核機関として、市社会福祉協議会に権利擁護センター「ほっとネット(ほっとかれへんネットワーク)」を設置し、この中核機関を中心に、成年後見制度の支援を必要な人に迅速かつ適切に行うために各機関で構成された、地域連携ネットワークの構築を図っています。しかし、認知症高齢者の増加、さらには単身世帯の増加により、成年後見制度や日常生活自立支援事業に加えて新たな受け皿となる権利擁護支援策が必要とされる場面が加速度的に増加している現状の中、新たな支援策が必要であるとして、モデル事業に参入し、多様な主体が参画する「八尾市見守り推進事業」を展開しています。
 当初は判断能力の低下が比較的軽度な身寄りのない単身高齢者を対象者としていましたが、認知症に限らず、知的障がい、精神障がい者も対象としてターゲット層を広げ、日常生活自立支援事業と併用し、より細かな支援にするとしています。
弁護士会・司法書士会・社会福祉士会で構成された「八尾市見守り推進事業検証委員会」が監督機関として、専門的知見を有する第三者的立場で監督・助言等を行います。
 おもいのみまもりとして、見守り隊が、月2回程度の訪問を行い、本人の日常的な金銭管理サービスの提供状況を見守り、社会生活において、本人が安心して意思の形成、表明をすることができるように支援します。利用料として1回につき500円を利用者から直接見守り隊に支払います。利用者が認知機能の低下等により利用料のやり取りが困難になった際に、他制度へのつなぎを検討するとしています。見守り隊登録者は、現在5名(市民後見人OB2名、バンク登録者3名)で、担い手の確保が必須です。
 おかねのみまもりについては、支援者として金融機関や事業所を想定していますが、金融機関を取り巻く現状は、現金取り扱いの厳格化が進み、縮小傾向にある窓口で認知症疑いのある高齢者対応に苦慮している状況で、どの金融機関においても、モデル事業の趣旨には賛同いただいているが、金銭管理サービス事業者としての事業参画には非常にハードルが高い印象を持っているとのことでした。急激なデジタル化が進む中で、市民がキャッシュレス決済等に対応できるような取組も展開しているとのことです。

 高知県黒潮町は、南海トラフ大地震最大被害予想値(最大津波高被害予想値34m)を突き付けられ、防災施策として「犠牲者ゼロ」を目指し、地区防災に力を注いでいます。行政に頼らない、地域住民主体の防災として、行政の役割、地域の役割、個人の役割を明確化させ、「防災=福祉」という考えのもと、地域福祉を充実させていくとしています。
 少子高齢化が進む海辺の町では、子供の多くは成人して県外へ出て行ってしまいます。誰が支えるのか?行政ではなく、地域で支える仕組みが必要です。持続可能な権利擁護支援モデル事業として「既存の枠組みを生かした権利擁護の持続可能な発展」に取組んでいます。黒潮町権利擁護センター(黒潮町社会福祉協議会)が監督・支援団体となり、そのアドバイザーとして行政書士、司法書士、法テラスが後方支援します。
 利用者の範囲は、契約する能力があると判断される身寄りのない人(同居家族からの支援を受けられない人も含む)を対象としています。
 意思決定サポーターとして、町民館相談員や民生委員、メインサポーターとして高知県独自の地域福祉拠点である「あったかふれあいセンター(NPOしいのみ・黒潮社会福祉協議会)」を活用予定であり、このあったかふれあいセンターは「重畳的支援体制整備事業」の委託先(特に参加支援、地域づくりの担い手)にもなっています。住民の身近な相談窓口として定着しつつあり、保健師、民生委員、社協、事業所との多機関協働による支援の連携により、アウトリーチによる潜在的支援者の発見を重視しており、SOSを出せない人や生活困窮者の発見につながっています。買い物支援も行っており、町内6拠点ほぼ全域をカバーしているとのことです。意思決定サポーターによる「意思決定支援」は、月2回程度の訪問を行います。小口現金の利用状況のヒアリングを含めた生活上の困りごと等を聞き取り、解決できる範囲で支援し、監督者との情報共有ミーティングを月1回行うことで、通帳の確認と利用者の生活状況報告をします。
 日常的金銭管理サービスについては、介護保険事業所及び金融機関が本人を支援し、事業者による日常的金銭管理については、口座出納管理は金銭管理サービス事業者が実施し、在宅の場合は通帳・銀行印の保管は行わず、小口現金のみを管理します。施設入所の場合は通帳・銀行印の保管を行い、管理対象は小口現金のみです。1か月7万円以下を基準としているとのことでした。

 大川市は、医師会が中心となり在宅医療介護連携を推進しています。モデル事業への取組みの背景には人口減少、1人暮らし高齢者の増加があります。地域ケア会議から抽出された課題は、「親族等の支援者不在で入院や入所ができない」、「お金の管理ができず必要な支払いができない」、「身元引受人がいない」等の問題が顕在化しており、金融機関においても「認知機能が低下した高齢者の窓口対応に大変労力がかかっている」という実態があり、現在の後見制度や事務管理による支援だけでは対応が困難という現状です。
 大川市のモデル事業「簡易な金銭管理・意思決定支援」の目的は、身寄りのない人も含め、市民が人生の最期まで安心して暮らし続けられるようにすることです。そして、担い手不足は市民の生活に必要なサービスの現場でも同様です。できるだけ人的コストをかけない支援の仕組みづくりを行い、持続可能な大川市を目指すとしています。市、社協、成年後見センターで作戦会議を行い、市のボランティアポイントデジタル化事業で連携していたKAERU株式会社の持つKAERUカードの仕組み(事前チャージ式のプリペイドカードで、キャッシュレス決済はもちろん、1日に使える金額(1日〇千円など)を設定して、上限額を超えてチャージされない設定で使い過ぎを防止する機能あり)を活用して、人的コストをできるだけかけない仕組みづくりに取り組むことになり、令和5年7月6日に権利擁護ネットワーク会議+持続可能な権利擁護支援モデル事業検討部会を開催しました。市、社協、後見センターだけでなく、金融機関、医療機関、福祉施設を含め、身寄りのない人等の金銭管理の現状と課題認識を共有し、連携して取組む内容として、①身寄りのない人の入院・入所対応マニュアルの作成②身寄りのない人等の日常的金銭管理支援の仕組みづくりをするとの規範的統合ができたとのことです。
 日常的金銭管理サービスには、キャッシュレス決済機能を活用するとしています。大川市と契約した金融機関及び社会福祉協議会が本人を支援。市が本人の利用登録を受付後、本人、金融機関、社協での三者契約、KAERUカード利用申し込みを行い、通帳や印鑑、エンディングノート等は社協が預かり、入院・入所時の費用の支払いは病院等の請求に基づき金融機関から直接振り込むとしています。支援実施の都度、市へ実施報告(googleフォームを活用)をします。市より月に1回程度の定期確認があります。
 意思決定サポーターは、大川市の意思決定サポーター養成研修修了者で、市に登録した者を派遣し、月に2回(1回1時間まで)行政手続きへの同行も含むとして本人を支援します。市からサポーターへの報酬支払いにもKAERUカードが活用されます。サポーターは都度、後見センターへ支援実施報告(googleフォームを活用)をします。後見センターより月1回程度の定期確認があります。

3つの市町村の取組についての総括
 それぞれの自治体のもつ地域資源を活用した取組は大変興味深く、しかし、見えてくる課題は共通していると思います。人材不足、財源不足、身元保証人がいない、金銭管理、医療同意等、少子高齢化社会の抱える問題は、社会全体で課題を共有し、地域全体で繋がり支え合う権利擁護支援の地域連携ネットワークの体制の整備がポイントになると思います。「現に支援を必要とする人も含めた地域で暮らす全ての人が、尊厳のある本人らしい生活を継続でき、地域社会に参加できるように、地域や行政、福祉、法律専門職、家庭裁判所を加えた、多様な分野・主体が連携するしくみ」の構築を図ることが今、求められていると思います。
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